■統合失調症(精神分裂病)Schizophrenia,Schizophrenie


1.周囲の人に気づかれること

 

①動作や表情の異常統合失調症の患者は,人間的な接触をしようとしてもなんとなくうまく通じ合えない感じを相手に与える.これは「感情的接触(ラポ-ル Rapport) がない」と表現される.また,奇妙な動作,状況に合わない表情が認められる.・空笑(人もいないのに,にやにや笑っている)・独り言(幻聴と会話している)・常同行為(無意味な同じ動作を長時間繰り返す)・衝動行為(暴力や自傷などの突発的行為)

 

②自閉性 autism

自分の内面の主観世界に閉じこもり,現実への関心を失う.服装や礼儀が乱れ,自室に閉じこもって人と会うのを嫌がり,寝てばかりいたり,入浴 や歯磨きをしなくなる.非常識な行動も多くなる.

 

③両価性 ambivalence

同一対象に対して同時にまったく相反する感情,意志,思考を示すこと. たとえばある 人物を愛し,かつ「同時に」憎むというような複雑な心理状態      

 

④感情の障害 disturbance of affect

無関心さが強くなる.(家庭生活や職業生活やレジャーの楽しみに対してのみならず,自分の幸,不幸,未来などに対しても無関心)これが末期になると,感情鈍麻といわれる状態になる.

 

⑤思考障害 disturbance of thought

「連合弛緩 loosening of association 」はしばしば認められる思考障害で,これは観念と観念のつながりが乱れ,バラバラになったり,歪んだり,奇妙なかたちでつながったりする.その結果,思考は他者との共通性を失い,独りよがりのものとなり,他人に理解されない.初期の患者はそのことを自分で自覚し「考えがまとまらない」「余計な考えが浮かぶ」などと言う.さらに思路の障害が悪化すると,全く意味のない言葉を羅列する「支離滅裂 incoherence」状態となり,聞く側には言葉のサラダ(いろいろな概念や言葉がまとまりなく表現され,ごちゃ混ぜになっている)という状態に陥る.

 

2.統合失調症患者が体験している症状

 

①妄想 delusion

「訂正不能の誤った考え」を妄想という.統合失調症でー番多いのは「人が自分に注目し,追いかけ,のけものにし,迫害する」という被害妄想である.はじめ漠然とした疑いの段階から,次第に絶対の確信になっていく. 初期には「世界が今までとは変わってしまって,奇妙な感じがする(世界変容体験)」などと訴える.また,無関係な出来事を自分に関係づける「自己への関係づけ」が多く,ささいなことを気にする.更に進行すると被害妄想,関係妄想などが出現する.最近は「テレビやインターネットで自分のことを放送している,だれかが自分の家の中をいつものぞいていたり,盗聴したりして,馬鹿にしている」といった内容が多い.

 

②幻覚 hallucination

a.幻聴 auditory hallucination統合失調症の幻覚のほとんどは幻聴で,それも「人の声」が聞こえ,その内容は自分のことを噂しあっている人たちの会話だったり,自分へ直接話しかけたり命令したりする声だったりする.後者の場合,話しかけられると,こちらが心のなかでそれに答え,幻聴の相手も,またそれに応じるという体験があり,これを「対話型の幻聴」という.

 ◆幻聴に近縁の異常体験 

   考想化声(自分の考えが声になって聞こえる)

   思考伝播(自分の考えが人にわかってしまう)  

   思考吹入(他人の考えが頭に入ってくる)

 

b.体感幻覚(セネストパチー)

統合失調症では「身体感覚の幻覚」がある.これは「頭の中を虫が動きまわる」とか「身体中に電波がかけられる」などという一見して荒唐無稽な内容から,「頭の骨が薄くなっていて,精気が抜けていく」など,奇妙でグロテスクな表現で語る.「夜,自分が眠っているうちに,セックスをされる」「膣の中にクギが入っているので痛くてたまらない」などという性的な体感幻覚も多い.

 

③作為(さくい)体験・させられ体験

「他人に嫌なことを考えさせられる」「笑いたくもないのに笑わされる」「機械仕掛けで動かされる」などという訴えがしばしばある.これを作為体験,影響体験,影響感情といい,統合失調症に特有の症状である. 

 

 ムンクの「叫び」は統合失調症の患者の不安に満ちた心理をよく表現している