■承認欲求と過剰適応

 

  人間は他者を認識する能力を身につけ,社会生活を営んでいくうちに,「誰かから認められたい」という感情を抱くようになる.これが承認欲求である.これは主に子どもや,何らかのハンデキャップを抱えている人々などの社会的弱者,劣等感に悩んでいる人間,そして情緒が不安定な精神病患者やパーソナリティ障害を持つ者に強いという傾向がある.これは,いわゆる「自己顕示欲」ともいえる.  その反対に,自閉症などの他者とのコミュニケーションが難しい,あるいは既に承認されたという経験があり,それ以上の承認を必要としない人間は,それほど強い承認欲求を抱えない.これらの理由から,承認欲求は先天的な欲求ではなく,対人関係を学習する過程で育まれる後天的な欲求である可能性が高い.

 

〇行き過ぎた承認欲求---過剰適応と「自己顕示欲」の満足

  人から良く思われようと努力をしすぎていないか? 自己の本質を捨て承認欲求だけを追求することは,多くの問題を生むことになる.これが過剰適応(overadaptation)である.

外的適応:社会や現実の要求に応じて,自分の属性を変化させていく過程

内的適応:内面的に幸福感と満足感を経験し,心的状態が安定していること

過剰適応とは外的適応が重視されすぎ,内的適応を軽視した状態である.

  過剰適応者は,一見,環境に適応しているように見えるが,その内側は,不満や不安を抱えている.過剰適応者の心理は,嫌な奴だと思われるのではないか,周囲に受け入れてもらえないのではないか,という不安である.彼らは他者から良い評価を得ようとしている.すなわち,承認してもらうことである.この時,怒りや不満は抑圧されてしまう.この結果,抑圧された不満は心理・身体的な症状となって現れてくる.

 

〇過剰適応性

 相手から嫌われないように配慮して,自分の考えを変更しても相手に合わせる.相手が話している内容から,その人の考え方の(一部を)読み取って,それをもとにしてその人が好むようなことを言う.相手から嫌われるのも,相手から怒られるのも,議論になるのも怖い.すなわち,家族の雰囲気や学校での緊張感,雰囲気,空気などを読んで,相手を怒らせないように,トラブルが起きないように配慮して,自己犠牲的に周囲に合わせようとする.このような性格特徴が「過剰同調性」である.

 

■ひたすら相手の表情と状況を読んで,機嫌を損ねないようにする

■家庭や学校という場の雰囲気を読んで,自己犠牲的に周囲に合わせてきた

■親の期待にそって生きてきた.「いい子」だったといわれることが多い

■相手の責任を追求したり,攻撃的態度に出たりすることは少ない

■自分の欲望,主張,意見より,相手の意向を尊重する

■悪いことが起こると,周りを責めるのではなく,自分を責める

■人に対して不安,不信や怯えがある.(これはいじめの経験が原因のこともある)