■支持的精神療法と洞察型精神療法

 

  支持的精神療法: 患者の精神構造は未分化であるという前提から,
                             患者の自我機能を支えつつ,健康なレベルに戻すことを目的とする.


  洞察型精神療法: 患者は良質の精神構造を持ちながら,
                             ある葛藤からそれを利用できなくなっていると考え,
                             患者の内面の動きを意識化することを目指す.

 

〇指示的精神療法の治療対象

 

  患者の評価ポイント:   ①内省力が欠如している.
               ②自我の欠損がある.
               ③現実検討力が低下している.
               ④衝動をコントロールできない.
               ⑤基本的信頼が欠如している.
               ⑥苦痛への耐性が低い.
               ⑦貧困な対象関係しか築けない.
               ⑧心的活力が不足している.
               ⑨知性と言語能力が不足している.
               ⑩治療者に対する抵抗から,長い沈黙が続く.
               ⑪自我防衛が限定されている(投影,否認,分裂).
               ⑫症状を身体化することで,心理的問題を回避している

 

  評価を誤りやすい患者:  ①気分が変わりやすく,不安定な思春期患者
               ②薬物・アルコール乱用者
               ③心的外傷によって,一時的に退行している患者
               ④演技的なヒステリー患者
               ⑤家族によって治療に連れてこられ,抵抗を示す患者

 

  → これらの患者は,ストレスに対して一時的に反応じているだけで,実際は洞察型精神療法に耐えうるだけの能力を持っている場合がある.このため,患者が支持的精神療法か 洞察型精神療法のどちらに適しているかについて,治療の初期に時間をかけて検討するこ とが重要である.

 

〇治療者の姿勢

 

・社交的会話を取り入れ,友人のような親しい関係を築く.
・治療者は,患者が同一視できるような,成熟したモデルとして振舞う.
・治療者の価値観を押し付けず,患者の決断を援助する.
・患者の欲求を昇華する方法を探す(スポーツ,芸術,音楽など).
・患者の困っていることに対して,権威的にならないように助言を与える.
・患者の行動に対して,限度を設定する.
・患者本人が受診できない場合,電話面接や家族面接など,柔軟なアプローチをとる.
・患者が理解できるように,簡潔明瞭な言葉を使う.
・患者の日常生活について把握する(仕事内容,余暇の過ごし方,嗜好,友人関係).

 

〇支持的精神療法の戦略

 

・患者の人間関係の問題点を,時間をかけて繰り返し扱う.
・患者の言葉から事実と曲解を区別し,事実についてはその内容を認める.
・現実の曲解について患者を直面化させることは避け,柔らかい表現を用いる.
   ex. 「もっと別の方法で,それを行うことはできなかったでしょうか?」
・患者の苦痛に対して,これまでの対処法を思い出させたり,苦痛を和らげるための助   言をする.
・衝動統制の乏しい患者には,患者自身の行動がもたらす影響について示し,衝動を自   制するための替りの方法を教える.
・批判的態度をとらず,患者のポジティブな行動を奨励する.
・患者の力で治すことを目指す.
・治療ゴールについて,患者と治療者の意見を一致させ,柔軟に変更する.

 

〇支持的精神療法から洞察型精神療法への転換

 

  転換期の評価ポイント    ①現実検討力の回復
            ②否認,投影,分裂の減少
            ⑤昇華(趣味や社会活動への言及)

 

〇支持的精神療法の補助的手段

 

  1. 家族と友人
  2. 入院・・・患者の精神状態について最も早く察知し,治療期間への受診を勧めたり,退行が軽度の場合は支持的ヶアを与えることができる.患者の一日に,計画性をもたせることができる.
  3. 支持グループ・・・同じ悩みをもつ患者が集まることによって連帯感が生まれ,教育的,母性的な環境が準備される.
  4. 仕事・・・患者の自尊心を強化し,経済的に自立させる.また,欲求や衝動の昇華させる作用もある.
  5. 専門的クループ・・・アルコール依存症のリハビリテーション・センターなど.
  6. 投薬・・・躁うつ病,統合失調症などは,適切な投薬によって症状が安定する.

 

〇治療の終結

 

  1. 患者に変化が起こった時点で,洞察型精神療法へと徐々に転換していく.
  2. 一部の患者は,一定の適応状態に達したとしても,危機によって心理的平衡が容易に  崩されるため,定期的に支持を続けることが重要である.