■森田療法と森田理論

 

森 田 療 法 と 森 田 理 論

  森田療法とは,森田正馬(1874~1938)によって,1919年に確立された神経症の治療理論である.森田は神経症は病気ではなく,誤った習慣であることを見出した,すなわち,神経症者は正常者であり,彼らは探せば誰にでもある正常な心身の現象を,誤って病的異常と判断し,これにとらわれ,これをとり除こうとし,そこに精神の葛藤を起こして苦悩するものであることを指摘した.このような「症状を取り除こうとする誤った対策」によって引き起こされるものが神経症であり,彼らの訴えの多くは正常な心身の現象であるので,森田はその症状を治療の対象とすべきでないとした.すなわち,症状は治すことはできないし,治らないと突き放した.しかし,症状により彼らの生活は著しく障害されており,この障害された生活習慣(悪い習慣)を,彼らの「生の欲望」に沿って修正し,再教育を行うことが必要であるとした.治療者の指示に従って,患者が「とらわれ」から脱し,行動本位の生活を続けることにより,いつとはなしに症状から開放されていることが多くの患者に経験されたのである.こうして案出されたものが森田療法である.

 

  この「とらわれ」から脱するには,症状を治そうとしないことである.症状を治そうとすれば,意識はそこへ集中し「とらわれ」はさらに深くなるのである.このため,症状の出現は「あるがまま」とし,「今,やるべきことをやる」という意識の外向をすることが必要である.これに基づいて,「行動本位」「目的優先」の生活態度が求められる.患者の訴える症状は,正常人ならだれにでもあることで,それは消し去ることができないものである.

入 院 森 田 療 法

  森田療法の原法は,森田正馬が自宅に患者を起居させ,家族とともに毎日の作業に従事させたものである.実際には4期(絶対臥褥期(ゼッタイガジョク):1週間,トイレ・食事・洗面以外は個室で寝たままにさせ,心身の安静と徹底的な煩悶(ハンモン)を体験させる期間,軽作業期(草取り・掃除など),重作業期(農耕作業),社会復帰準備期で,全期間は5~8週間という経過を経る.この間,治療者と一体となった家庭的環境の中で毎日,日記をつけて細かい指導を受け,治療者による講話,患者同志の集団療法も並行する方法である.

 

外 来 森 田 療 法 

  実際の森田療法では,外来治療が特に重要である.患者には心に自然に浮かんで来る考えや感情を,そのまま患者自身が受入れ,治そうとか逃げようとしないで,苦しいままにして(あるがまま),現実生活に努力していくことを指導する.その要領は,感情本位(気分本位)と理想本位の生活を禁止し,多くの場合,それまで通りの仕事に従事させたまま,行動本位の生活を押し進めていくことである.外来森田療法では,実際には日記をつけ,それによって患者の生活全般を指導してゆくのであるが,読書療法・集団精神療法・講話も併用する.回数は週1~2回,治療時間はおよそ2~6か月位を一応の目標とするが,ときには数回の面接のみで改善に至る患者もみられる.

 

外 来 治 療 の 留 意 点

 神経症者は表面的には穏やかで,聞き分けのよいように見えても,その内面は頑固(ガンコ)で視野が狭く,自説を曲げないことが多い.従って外来治療の場合では,患者が医師の指導に素直に従って,それを実行に移すか否かによって本法の成否が決定される.患者が治療者に苦悩のすべてを預けて全面的に治療者の指示に従うという境地に身を置くことができれば,症状が治るか治らないかは問題外となって,健全な生活を送るための努力と工夫が生まれ,道が開かれるのである.

 

適 応 症

 森田療法は,森田の神経質(普通神経質=心気症,強迫観念症=強迫神経症,発作性神経症=不安神経症)が本来の適応である.さらに,うつ病の回復期,慢性の身体疾患の経過中におこる種々なる心理的な問題の解決,またアルコール依存症にも応用されている.最近では食行動異常(拒食症・過食症)にも適用拡大がはかられている.  しかし,治療意欲のない者,病識のない者,森田療法を理解できる知的能力のない者,そして躁病などは原則的には適応とならない.

 

森 田 療 法 の 治 療 効 果

  森田,竹山によれば,全治約58%,軽快約35%,両者をあわせて約93%に有効であることが報告されている.また,諸家(下田,横山,宇佐,高良,野村,鈴木,阿部,藍沢,丸山ら)による有効率は,全治,軽快をあわせて92%,同じく与良は80%であると報告している.本法は精神分析や認知行動療法などに比べて,治療期間が短く,しかも有効率の高い点が特徴である.